保険リスクマネジメント (アクチュアリー数学シリーズ 6)
作者: 田中周二
出版社/メーカー: 日本評論社
発売日: 2018/09/25
メディア:単行本
この商品を含むブログを見る
田中周二先生といえば、アクチュアリーの研究者として、リスク管理に関する研究や講義をされている方です。日本アクチュアリー会の特論講座でリスクマネジメント論の講師も担当されています。
そんな田中先生が、日本評論社のアクチュアリー数学シリーズの一貫として出されたのがこの本です。
リスク管理、とりわけERMに関する本はこれまでも出版されていましたが、どちらかというと実務寄りな本が多いという印象があります。
この本の画期的なところは、ソルベンシーIIやIFRS17など、経済価値ベースのソルベンシー規制が導入されるなか、その理論的背景について解説しているところです。実務、とりわけ作業の担当者にとっては、規制はあたかも天から降ってきたように感じている方もいるかもしれません。そうではなく、その背景を知ることが本質的な理解につながります。
数理ファイナンスの知識が多少ある方が読みやすいように思います。本書でも多少触れていますが、ほんの復習程度です。必要に応じて数理ファイナンスの本と合わせて読むのをおすすめいたします。
参考文献を豊富に挙げており、理論や議論のベースとなったものがどれかをつなげているため、背景について体系的につなげてくれているのも印象的です。
ただ、、誤植が多すぎます。
田中先生の著書・訳書ではもはや定番(?)になりつつあるのですが、もう少し校閲に力を入れていただかないと、クオリティそのものが問われます。
一例を挙げると、
- p.58 表3.2 4行2列2行目「必要」の間にナゾの半角ブランク
- p.60 10行目「繰り延べ法」→「繰延法」
- p.67 下から3行目「X≦ a.s.」→「X≦Y a.s.」
- p.68 2行目「並進性」→「並進不変性」*1
- p.73 下から6行目 「アローデブリュー証券」→「アロー-デブリュー証券」
- p.73 下から2行目「→」
- p.84 下から8行目 expの後はカッコが必要
- p.89 2行目 「これから」は不要
- p.113 下から8行目「」→「」
- p.135 12行目 「200」→「195」
- p.140 4行目 「voaltility clustering」→「volatility clustering」
- p.147 下から2行目 「>」が抜けている
- p.155 3行目 「」→「」
- p.199 下から6,7行目 2つ目のイコール先から不等号が抜けている
- p.286 表15.3と表15.4のキャプションの「損害保険」と「生命保険」が逆
- p.298-299 図15.1と図15.2のキャプションの「生命保険会社」と「損害保険会社」が逆。しかも数字が一部違う(from At-Fujiさん)
- ・・・
メモとして残っているものだけでこれだけありまして、載せていないけど自分が認識している誤植は他にもたくさんあります。
14章の冒頭にCOSO ERMキューブを取り上げていますが、これは2017年9月に廃止されました(参考:
https://www.pwc.com/jp/ja/japan-knowledge/pwcs-view/pdf/pwcs-view201712.pdf)。出版時期的に盛り込める気がするのですが。
他にも、章によってクオリティがずいぶん異なるのも気になります。ある章はいかにも海外の文献をそのまま直訳したような文章である一方、ある章は途端に読みやすいところがあります。
リスクマネジメントということで、CERA試験対策には使えるか、、というところですが、個人的な感想では、Course Notesの一部を解説しているところはありますが、すべてが網羅されているわけではありません。英語が苦手な方には参考程度にちら見するくらいがいいのかなあ、と思います。
現在、日本のCERA試験はイギリスのアクチュアリー会、IFoAのST9(2019年からSP9)の試験に仮訳をつけたものを実施しています。当面はこれがしばらく続くものと思われますが、いつかは日本独自で実施する日が来るのではないのでしょうか(中の人ではないので議論はまったく知らない)。それに対応する教科書としては物足りない気がしますが、これを叩き台として、広く深く理論と実務をくっつけるERMの体系をまとめた本が出てくれれば、と思います。
*1:そもそも,「並進不変性」というより「平行移動不変性」のほうがなじみあると思うのだが….