京大カンニング問題から大学入試制度を考える

2月26日の京都大学前期入学試験で、試験時間中に英語、数学の問題がヤフー知恵袋に書き込みがなされて、不正行為の疑いがもたれる事件が発生しました。

大学入試:ネットに京大問題 4大学で同一名投稿(毎日新聞)

このaicezukiというユーザーの書き込みは、この記事を書いている2011年2月27日18:43現在閲覧することができます(http://my.chiebukuro.yahoo.co.jp/my/myspace_quedetail.php?writer=aicezuki )。この一覧によると、京都大学の入試問題だけでなく、同志社大学立教大学の入試問題に関しても同様に試験時間中に問題を書き込んでいたと見られています。
どのような手段で書き込みをなされたかはわかりませんが、いずれも同一人物の犯行とみられています。これはあくまでも私の推測にすぎませんが、試験前の告知にも関わらず携帯電話を所持し、隠しカメラか記憶で問題を覚えてトイレに行った際に打ち込んだのだろう、と考えられます。この場合、どの端末から発信されたのかを特定できるはずなので、書き込みされた時間帯にトイレに行った学生を絞りだせば特定できるはずです。
これまで、いわゆるカンニングと言われる不正行為と言えば、隣の学生の答案を覗いたり、隠しペーパーや消しゴムにメモ書きするなど、アナログ的な手段を用いられていたものが常套手段だったと考えています。しかし、ネットを利用した、というところが今回のニュース性を物語っているでしょう。集合知を悪用した今回のケースは大学入試の事件史として残るに違いありません。
この問題が深刻なのは、サイト自体を規制しただけでは解決せず、通信手段そのものを完全に遮断しなければならない、ということです。ヤフー知恵袋OKWaveへの書き込みの反映を遅らせる、という意見もありそうですが、自作の非公開サイトへ書き込んで、そこへ別の部屋で待機している別の人が解答して何かしらの形で答えを書き込んで、それを記憶して答案に書き込めば、カンニングは発生します。すなわち、ケータイやスマートフォンなどの通信手段を確実に所持させないようにしないと、今後も発生する恐れがあります。神戸大学では電源を切らせた携帯電話を机上に置かせるという処置をさせているようですが、究極の場合、教室の出入口に金属探知機などを導入しなければいけないかもしれません。

しかし、そもそも、今のような筆記試験のような大学入試のシステムがあるからこのような起こっている、ということも考えられます。センター入試の目的は以下のように定められています。

平成2年度から実施されている大学入試センター試験は,大学入学志願者の高等学校段階における基礎的な学習の達成の程度を判定することを主たる目的として大学が共同して実施するものであり,各大学における多様な入学者選抜のための基礎資料を提供しています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/kaikaku/pdf/p172.pdf

その基礎的な学習の達成程度を一斉ペーパー試験で計る、ということは正しいのでしょうか?標準的な学力を計る、という目的は達成されているでしょう。しかし、東京大学京都大学、医学部志望の場合平均得点率が9割を越えているケースが多々あり、大して差が付いていません(実際、センター試験の傾斜配点は上位校とされている大学ほど低いです)。
また、安田亨氏が指摘するように、数学の問題の誘導に無理難題が出てきているケースもあり、問題が適切かどうかはマークシート式の限界が露呈しています(※以前は安田氏のサイトに掲載されていたのですが、削除されているようです。内容を要約すると、自然な発想でない問題を誘導形式に解かせようとしているところがおかしくないか、と疑問を呈しています)。
茂木健一郎氏はアメリカのようなSATの導入を提案しています。

@kenichiromogi
SATのサンプル問題 (http://bit.ly/dOW1iy )を見ればわかるけれども、基本的なことばかり。paper testでは、これ以上の小賢しいことを聞かない、というのが、一つの叡智。
http://twitter.com/#!/kenichiromogi/status/41660536357654528

SATの大きなところはパソコンで受験をするところで、しかも何回も受験が可能である、ということです。就職活動をしている学生にとってみれば、テストセンターでSPI2の代わりにセンター試験を受ける、という感覚でしょう。TOEFLのIBTも同様の形式なので、公平性や独立性は導入すれば確立されると思われます。また、一発勝負じゃないところでリスクは分散されるし、良い成績のみ反映させることで成績を向上させようとするインセンティブは働くでしょう。
しかし、50万人以上もの受験者が一定の期間で受験するわけですから、ただでさえテストセンターやTOEFLでパソコンの一斉試験ができる会場が使われているので、そのインフラを整備するのに時間とコストがかかるでしょう。
また、数学における論証力をSATで計れるか、というのは大いに疑問です。SATのサンプル問題を見ましたが、高校数学の基礎事項がわかれば解ける問題ばかりでした。茂木氏はこれをこのくらいの問題がちょうどいい、と主張しますが、数学の問題の目的は単に数学的知識だけではないと考えます。論理の一貫性や抽象的思考があるか否か、というものも数学の論述を通じて見ていると思います。実際、受験雑誌「大学への数学」の設立目的もそのような思考力向上を含んでいます。証明問題という形式をとるならば、SATのような択一問題ではちょっと無理があるのではないでしょうか?タッチペンで記述させる、という手もあるかもしれませんが、実用化にはまだまだ時間がかかるかもしれません。

現実路線としては、監督を厳しくする、というのを第一にして、教室に持ち込みを許可したものと筆記用具以外(バッグさえ規制する!)持ち込ませない、とするのがベターだとは思います。ただ、これを機に入試制度自体の見直しも起こって欲しいものです。
ちなみに、カンニングといえば「カンニンGOOD」というマンガがありました。もっとも、このマンガで出てくるカンニング手段は現実離れしたものばかりなので、カンニングを推奨するようなものではないですが。。

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