少子化には良い面もある?

生命保険の業界紙である「週刊インシュアランス 生保版」の2023年6月号第4集を読んでいると、「主張」というオピニオンコラムのコーナーにとんでもない見出しを見つけてしまいました。その見出しは、「少子化には『良い面』もある」というものです。
インシュアランスはネット記事を掲載しなくなったので、要点だけまとめると、こんなことが書かれていました。

  • 少子化」は深刻な問題であるが、好ましい側面もあるのではないか
  • 人口問題を取り上げる際は、多様な視点・長期的な展望で考えることが重要
  • 「一人当たり引き継がれるもの」は少子化になるほど大きい(正の遺産も負の遺産も)
  • 「高齢化」問題や「空き家」問題も同様に見方を変えればポジティブな捉え方もできる

好意的に解釈すれば、「少子化」を題材にして、一方的な見方だけに固執せずにいろんな考え方をしてみよう、という読者へのメッセージなんだろうな、というのはあながちわからないでもないです。しかしながら、「少子化」を題材にするのはちょっと無理筋ではないか、というのが一読した感想です。
この主張に対しては2つに分けて考えるべきであり、

  • 一般論として多様な視点・長期的な展望で考えることに対する是非→これは同意
  • それを踏まえて少子化には良い面もあるのかという是非→それは同意しがたい

と、大風呂敷を広げるだけ広げて、各論については例示にとどまっているのはちょっと無責任にも感じます。

例えば、少子化の「良い面」として挙げている「一人当たり引き継がれるもの」が大きくなるという点ですが、具体的に引き継がれるものとは何でしょうか。マクロ的には、(記事でも挙げているが)道路や上下水道などの公共物、ミクロ的には、親から相続するであろう遺産でしょうか。前者の場合、公共財を資産評価したものを1人当たりに頭割りして考えることはナンセンスですし、むしろ少子化によってそれを維持する人手が足りなくなってきているのが現状です。後者の場合、確かに裕福な家庭であればその恩恵を受けるケースもあるでしょう。しかしながら、取り分が増えるだけ相続税もかかるわけで、どのくらい恩恵があるかはちょっと複雑な問題な気がします。ちなみに、この記事によると、平成27年の税法改正の要因もありますが、被相続人一人あたり金額は減少傾向にあるようです。果たして、それらを踏まえると総合的に見てプラスだと言えるのでしょうか?定量的に分析してみる余地はあるかもしれませんが、直観的には疑問符がつきます。

見方を変えることで議論が発展することはあるでしょうが、アイディアだけにとどまらずにそこから深い考察を入れていかないと意味がないですし、「見方を変える」といいつつやっていることが「現実逃避」や「ポジティブシンキングという名の思想の塗り替え」になってしまっては元も子もありません。