理数力よりも文理力〜今週の週刊東洋経済から〜

先週の金曜日、3/11に東北地方や関東地方に大地震が発生しました。それに伴い各地で災害や停電など、窮屈な生活を強いられています。心からお見舞い申し上げます。微力ながらも、私自身も出来る限りの支援をしていく所存です。

さて、本題です。
今週の週刊東洋経済の特集は、「理数力で決める!学校&就職」というものでした。

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# 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
発売日: 2011/03/14
発売日: 1996/05
メディア: 雑誌
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書評を書くつもりではないので、詳細は本書を読んでいただくということにさせてください。
必要なところだけ概要を紹介すると、要するに「これからの社会で必要とされる人材は理系だ!」という主張を一貫させています。そのために、親として子供にどのような教育が現状として与えられて、それから与えるべきなのか、また働き方としてどのようなキャリアパスがあるのか、ということを紹介しています。
京都大学の西村和雄教授の調査によると、生涯年収は理系のほうが文系よりも多いという結果が得られたそうです。企業としても需要はこれからも高まる一方で、理系的な知識や発想はこれからも求められる傾向にあるようです。
しかし、理系になるには参入障壁が大きいというのが現状です。まず、理系ならば数学、理科のいずれかが得意でないと厳しいでしょう。また、日本の大学は学生数の割合において文系の方が圧倒的に多いです。文系:理系では7:3と記事中に出ています。入学してからも大変で、数学科と一部の情報科学系を除いて実験によって文系に比べ多くの時間を拘束され、特に私立理系に進学した場合、文系よりも多くの学費を払わなければなりません*1
それでも、そのような障壁を乗り越えてでも数学によって身につく論理的思考力や発想力、理科によって身につく問題解決力は、日本の技術力向上だけでなく、日常における情報の分別においても大いに役立つと確信しています。そういう意味で理系的素養は必須でしょう。
ただ、東洋経済を読むと、理工学部・医学部・薬学部バンザイ、みたいな論調に陥りそうですが、それには僕は首をかしげます。
社会で本当に活躍するための能力というのは、理数力もそうですが、やはり文系的素養も不可欠であろう、というのが私の思うところです。
文系的素養とは何でしょうか。私の中では、文化(文学・歴史)への教養、政治・法律・経済など社会科学への興味、コミュニケーション能力だと考えています。
私は今理工学研究科に所属していますが、学部は経済学部でした。あくまでも個人的な認識ですが、両方を見てきて、文系学部だと人文的な興味やコミュニケーションが取れる人が多い一方で、専門的(特に理系)な話になると耳をふさいでしまう、という傾向がありました。逆に、理系学部だとぐっと考え込んだり粘り強く問題に取り組む、という人が多いのですが、その分説明ベタだったり、時事的な話題には関心を示さない、という傾向を感じます*2
理数力が大事、とはいっても、それはあくまでも「これまで多くの文系の人が目をそむけていたもの」もこれからは欠かせなくなりませんよ、ということです。それは逆に、「文系的素養は当たり前に持っていなければならない」ということです。両方の素養を持っているに越したことはならない、むしろ強いのですから、理系の台頭、というより文理系の台頭がこれから強くなってくるのではないでしょうか。
では、どうやって身につけさせるか、という話になると思われます。
以前であれば、大学の教養科目で補われていました。一応大学の授業科目にも総合教育科目(慶應義塾大学の呼称)が設置されて、内容にも工夫されていますが、多くの学生は楽勝授業という、いわゆる容易に単位を取れる授業に流れているのが現状で、形骸化されていると言わざるを得ません(最近学部を卒業してそう思うくらいですから…)。
そうなると、ひとつの手法としては、入試の時点で試す、すなわち個別入試で5教科入試を復活させる、ということが考えられます。多様な入試制度がある中で、古いと言われるかもしれません。しかし、増えすぎた大学生をきちんと絞る、という意味では十分なスクリーニングになります。また、半世紀前は一橋大学でも理科の問題が出題されていました(「物理 名門の森」(河合出版)参照)。半世紀前というと、高度経済成長期を支えていた人々です。文系の彼らも少なからずそのような素養をもって大学の門をくぐって社会へ活躍していったわけです。
ちなみに、東洋経済の記事中においても、理数力だけで十分、というような言及はしていません。記事において、理系に力を入れている中高一貫校でも文理の教養を入れていると指摘しています。

さらには、文系志望者向けの理科講座を設けたり、逆に理系志望者に広く社会科を学ばせるなど、「文理を問わない幅広い教養を身につけさせようとする」といった特徴も指摘する。受験対策に走らない骨太な教養教育も、レベルの高い一貫校の魅力といえそうだ。

アクチュアリー試験においても1次試験こそ数理関連の試験が目立ちますが、2次試験では法務関係の知識も必要と聞きます。理数力も大事ですが、「人文力」と合わせた文理力こそ欠かせない、ということは自らにも釘を刺しておきたいところです。

*1:実は生涯年収との収支を差し引けば理系の方が高いことが知られています

*2:これはあくまでも私の印象なので、一般的にそれぞれの分野の学生全員がそうである、と示すものではありません。