生命保険業の健全経営戦略

http://www.amazon.co.jp/gp/product/4535557861/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4535557861&linkCode=as2&tag=keykeioboy-22生命保険業の健全経営戦略 財務指標とリスク測定手法による早期警戒機能
作者: 大塚忠義
出版社/メーカー: 日本評論社
発売日: 2014/07/25
メディア: 単行本

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昨年のアクチュアリー試験前から読みたいと思っていたこの本を、ようやく読了しました。
この本の趣旨は、保険会社経営にとって「健全性指標」が重要であることとその指標を計量化するための客観的手法について提言されているものです。
保険会社の健全性指標で代表的なものといえば、ソルベンシーマージン比率があり、これが200%未満だと早期是正措置がとられることになっています。これを導入したのは1995年(翌96年施行)で、2000年ごろに生保会社の破綻が相次ぎましたが、このときソルベンシーマージン比率は200%はおろか500%を超えていながらも破綻した会社もありました。すなわち、ソルベンシーマージン比率だけをもって健全性を判断するには限界があるのです。
この本では、健全性指標として「デフォルト距離」なるものを導入することで、ソルベンシーマージン比率よりも敏感に財務インパクトの影響を測れることを主張しています。その事例として、前述した2000年ごろに破綻した会社とそうでない会社はどこで分けられたか、という分析がされています。そこで興味深いのは1996年度に自己資本を積み増した会社は生き残ったものの、97年以降に積み増した会社は破綻に至った、と論じているのです。意思決定の早さとレピュテーションは大事である、と身に染みる分析です。
2000年ごろの生保会社の破綻について論じられているものとして有名なものには、植村信保氏の「経営なき破綻 平成生保危機の真実」があります。こちらはオーラルヒストリーを用いてなぜ破綻したのか、を論じています。ただ、今回の本は経営指標から破綻に陥った所以を論じているところに一線を画するところがあります。

http://www.amazon.co.jp/gp/product/4532353246/ref=as_li_qf_sp_asin_il_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4532353246&linkCode=as2&tag=keykeioboy-22経営なき破綻 平成生保危機の真実
作者: 植村信保
出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
発売日: 2008/09
メディア: 単行本
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1つ気になるとすれば、「デフォルト距離」は確かにふさわしい指標かもしれない、と読んでいて思う一方で、破綻してから後付けで数値をこねくり回して(←上から目線)、今後の経済環境や生保経営の変動でも説明しきれるか、というところは残ります。とはいえ完全な指標というのはソルベンシーマージン比率同様、ないのかもしれません。継続的に「デフォルト距離」を測定して、モニタリングをしていくことが必要でしょう。
すべての保険会社がオープンに有用な財務指標を公開しているとは限らない、というのも歯がゆい気がしました。それが分析の限界を示す要因の1つとなっているのでしょう。とはいえ会社も簡単に財務情報を公開するわけにはいかないところもあるのでしょう。となると、この分野周辺の研究の展開となると、産学協同で社外に公開しない内部管理会計の指標を用いてさらなる分析ができるのかもしれません。

アクチュアリー試験受験生にとっては、直接2次試験に役立つような内容ではありませんが、なぜ解約率を織り込むことで保険料が安くなるのかを数値例を用いて解説している箇所はイメージしやすく、参考になることでしょう。